網膜 ― 黄斑の病気
加齢黄斑変性(AMD):診断と治療
加齢黄斑変性(AMD)は、フランスで50歳を過ぎてから目が見えにくくなる、いちばんの原因です。早く見つけ、必要なときに早く手当てすれば、進み方をゆるやかにでき、滲出型(湿性)では、効き目のある治療によって落ち着かせることができます。OCTによる検診、OCTアンギオグラフィー(OCT-A)、専用の処置室で行う抗VEGF薬の硝子体内注射まで、診療の流れをひととおりご説明します。
加齢黄斑変性とは何か
加齢黄斑変性(AMD)は、網膜の中心にある黄斑が傷んでいく病気です。黄斑は、字を読むこと、人の顔を見分けること、車を運転することに使う、はっきりとした見え方をになっています。多くは50歳を過ぎた方に起こり、先進国では、大人が目のはたらきを失ういちばんの原因となっています。
加齢黄斑変性は、厳密な意味で目がまったく見えなくなる病気ではありません。まわりの視野は保たれます。それでも中心の視力が落ちることで、日々の暮らしの自立は大きく損なわれます。字が読みにくくなり、人の顔が見分けにくくなり、車の運転は危ういものになります。この病気をもつ方の割合は、年齢とともに大きく増えます。55歳より前はまれですが、75歳を過ぎると、すべての型を合わせておよそ4人に1人にみられます。
臨床では、大きく2つの型に分かれます。多くははっきり分かれますが、重なることもあります。
- 萎縮型(乾燥型)の加齢黄斑変性 ― もっとも多い型で(およそ80%)、黄斑にある網膜の細胞が少しずつ失われていきます。進み方はゆるやかで、何年もかけて変わっていきます。
- 滲出型(湿性、新生血管型)の加齢黄斑変性 ― 数は少ないものの、進み方はずっと激しい型です。黄斑の下に異常な新生血管ができ、そこから水分や血液が漏れ出て、数週間のうちに視力が大きく落ちることがあります。この型は、急いで治療すべきものです。早く治療するほど、見通しはよくなります。

症状:加齢黄斑変性に気づく
加齢黄斑変性の症状は、型と進み具合によって変わります。診察でお伝えいただきたい、とくに多いものは次のとおりです。
- まっすぐな線がゆがんで見えること(変視症)― 窓の枠、床のタイル、文章の行が、波打って見えたり、曲がって見えたりします。滲出型がはじまりかけていることを知らせる、大切な前ぶれです。
- 中心の黒い染み(暗点)― 視野の中心に、ぼやけた部分や灰色がかった部分が現れます。
- 視力が少しずつ落ちること。とくに小さな字を読むときに感じます。
- 読むときに、より明るい光が必要になること。明るさが変わったときに、目が慣れにくくなります。
- 色や濃淡の感じ方が変わること。以前ほど鮮やかに見えなくなります。
ご自身での確認にはアムスラーチャートが役立ちます。診察のときにお渡ししています。30センチメートル離して、片目ずつ、方眼を見ていただくだけで、ゆがみや中心の暗点を早い段階で見つけられます。最近になってものがゆがんで見えるようになった場合は、早めに受診してください。
危険因子
加齢黄斑変性の起こりやすさを高める要因はいくつもあります。変えられるものと、変えられないものがあります。
- 年齢 ― もっとも大きな要因です。55歳を過ぎると、この病気をもつ方の割合は10年ごとに2倍になります。
- 喫煙 ― 変えられる要因のなかで、もっとも大きなものです。たばこは、加齢黄斑変性の起こりやすさと、進んだ形へ移る起こりやすさを2〜4倍に高めます。やめることは、何歳であっても役に立ちます。
- 血縁の方の病歴 ― 体質として受け継がれることは、よく調べられています。親、子、きょうだいにこの病気の方がいると、起こりやすさは2倍になります。
- 食べ方 ― 果物、緑の野菜、脂ののった魚の少ない食事は、この病気を招きやすくします。反対に、地中海式の食事は進み方をゆるやかにします。
- 紫外線を防がないまま日光を浴び続けること ― 議論はありますが、ありうる要因です。
- 心臓や血管の病気があること(高血圧、高コレステロール血症)― 細い血管が傷むという仕組みを、この病気と分かち合っています。
- 女性であること ― わずかに起こりやすく、寿命が長いことも一部に関わっています。
たばこをやめること、抗酸化物質とオメガ3を多く含むバランスのとれた食事、そして日ざしから目を守ること。これらが予防のはじめの一歩であり、進み具合にかかわらず取り組んでいただきたいことです。

診断:OCTとOCTアンギオグラフィー(OCT-A)
加齢黄斑変性の診断は、診察と、専門の画像検査を組み合わせて行います。診療所では、くわしい問診(これまでの病気、暮らし方、症状)、視力の測定、アムスラーチャートによる検査を行い、そのうえで瞳を広げる目薬をさして、眼底をひととおり診察します。
黄斑OCT ― 標準となる検査
光干渉断層計(OCT)は、今日、加齢黄斑変性の診断と経過観察において標準となる検査です。光による断層撮影のように、注射もせず、目にも触れずに、数秒で黄斑の断面を撮影します。
2つの診療所には、互いを補い合うOCTをそれぞれそなえており、お一人おひとりに合った診療が行えます。
- カシャンの診療所 ― OCT Cirrus 6000(Zeiss)。標準となるスペクトラルドメイン方式(SD-OCT)の装置で、ふだんの経過観察、網膜の厚みの測定、萎縮型の加齢黄斑変性におけるドルーゼンの計測に用います。
- パリ13区の診療所 ― Diabet’ ― OCT TowardPi YAlkaid(YG-100K)。波長1060 nm、100 kHzの最新のスウェプトソース方式(SS-OCT)の装置で、超広角のOCTアンギオグラフィー(OCT-A)が組み込まれています。この技術は、脈絡膜をこまかく調べることと、新生血管を見つけることにとくに向いており、従来のSD-OCTでは捉えにくい1型(網膜色素上皮の下にできるもの)の新生血管も写し出せます。
OCTによって、萎縮型(地図状萎縮の範囲を調べ、その広がり方を測ります)と滲出型(網膜のなかや下にたまった水分を見つけ、網膜色素上皮剥離を捉え、はたらいている新生血管を探します)を見分けることができます。
OCTアンギオグラフィー(OCT-A)― 新生血管を写し出す
OCTアンギオグラフィー(OCT-A)は、OCTの大きな進歩として近年生まれたものです。深さごとに血液の流れの信号を読み取ることで、造影剤を注射せずに(フルオレセインもインドシアニングリーンも使わずに)、網膜と脈絡膜の血管を地図のように描き出します。検査は短時間で終わり、体への負担も少なく、造影剤の注射もいりません。
パリ13区の診療所では、TowardPi YAlkaid に組み込まれたOCT-Aを使っています。一度の撮影で15×15 mmの範囲を捉えられ、従来のOCT-A(ふつうは6×6 mmまたは12×12 mm)よりはるかに広い範囲です。この広い範囲がとくに役立つのは、次のような場面です。
- 構造をみるOCTで疑われた新生血管を見きわめ、その場所を正確に捉えること
- 1型の新生血管(滲出型の加齢黄斑変性に多くみられます)ができる場所である、脈絡膜を調べること
- 治療中の新生血管の変化を、異常な血管の広がりの変わり方として測り、見守ること
- 萎縮型における細い血管の変化を地図のように描き出すこと。これは滲出型へ移る前ぶれであることがあります
OCT-Aだけでは足りない場合(見分けが難しい場合、中心窩の下にある型どおりでない新生血管、ポリープ状脈絡膜血管症が疑われる場合)には、従来のフルオレセインまたはインドシアニングリーンによる蛍光眼底造影を、補いとして専門の施設で行います。
萎縮型(乾燥型)の加齢黄斑変性 ― 経過観察と予防
萎縮型の加齢黄斑変性は、網膜色素上皮の細胞と、その上にある視細胞が少しずつ失われることによって、何年もかけてゆるやかに進みます。失われた細胞を取り戻す治療法は、今のところありません。治療は、互いを補い合う3つの柱からなります。
1. 間隔をつめた経過観察と、ご自身での確認
いちばん気をつけたいのは、萎縮型から滲出型へ移ることです。そうなると治療のしかたが根本から変わり、しかもいつ起こるかわかりません。だからこそ、間隔をつめた経過観察が欠かせないのです。進み具合に応じて6〜12か月ごとのOCTによる検査、診察と診察のあいだは週に1回のアムスラーチャートによるご自身での確認、そしてものがゆがんで見えるようになったときや、視力が急に落ちたときは早めの受診です。
2. AREDSにもとづく栄養の補給
アメリカの研究Age-Related Eye Disease Study(AREDS、2001年 ― PMID 11594942)では、抗酸化物質と特定の微量元素を毎日補うことで、中等度の加齢黄斑変性のある患者さんが進んだ形へ移る危険が、およそ25%下がることが示されました(オッズ比0.72、99%信頼区間0.52〜0.98)。続くAREDS2(Chewら、JAMA、2013年)では、この組み合わせ ― ビタミンCとE、亜鉛、銅、ルテイン、ゼアキサンチン ― のうち、βカロテンをルテインとゼアキサンチンで置きかえられることが示されました。この研究で試されたオメガ3については、網膜の病気の進み方に対する上乗せの効果は示されませんでしたが、心臓と血管に対する意義はほかで確かめられており、その点は変わりません。
この補給がすすめられるのは、中等度の加齢黄斑変性(ドルーゼンが融合しているもの、色素の変化があるもの)と、片方の目がすでに進んだ形になっている場合です。ごく初期の変化だけがある場合や、この病気のない方が発症を防ぐ目的で用いる場合には、役に立ちません。
3. 暮らし方を整えること
- たばこをやめること ― もっとも大きな効果があります。70歳を過ぎてからでも役に立つことが確かめられています。
- 地中海式の食事 ― 緑の野菜(自然のルテインとゼアキサンチン)、色の濃い果物、脂ののった魚、オリーブオイル。
- 日ざしから目を守ること ― 長く日を浴びるとき、とくに海や山では、紫外線を防ぐサングラスをかけてください。
- 心臓と血管の要因を整えること ― 高血圧、糖尿病、コレステロールを、かかりつけ医とともに落ち着かせておきます。
滲出型(湿性)の加齢黄斑変性 ― 抗VEGF薬の硝子体内注射
滲出型の加齢黄斑変性では、黄斑の下に異常な新生血管ができ、そこから水分や血液が漏れ出ます。治療をしなければ、数か月のうちに中心に線維性の瘢痕ができて元に戻らなくなり、中心の視力が大きく失われることがあります。今日の治療の柱は抗VEGF薬の硝子体内注射です。新生血管ができるよう促す信号を抑えるお薬です。
この治療は、病気の見通しを大きく変えました。20年前にはほとんどの方が中心の視力を失っていましたが、今日では、早い段階で治療を受けた患者さんの多くが、視力を保つか、良くしています。どれだけ早く治療を始めるかが結果を左右します。一週間の遅れも意味をもちます。
実際に用いている抗VEGF薬
滲出型の加齢黄斑変性に対して診療所で用いている抗VEGF薬には、アフリベルセプト(Eylea、および高用量のEylea HD)、ファリシマブ(Vabysmo)、ラニビズマブ(Lucentis)があります。どれを、どの順で使うかは、お一人おひとりに合わせて決めます。注射への反応、活動性がぶり返すまでの間隔、通っていただくうえでの負担、体との合い方をみて判断します。
- アフリベルセプト8 mg(Eylea HD) ― アフリベルセプトの高用量の製剤で、2024年にヨーロッパで承認されました。体内での動きの特徴から、少なくない割合の方で、はじめの月1回の3回の注射のあと、注射の間隔を12〜16週間まであけられます。第3相のPULSAR試験(Lanzettaら、Lancet、2024年)では、8週間ごとの従来のアフリベルセプト2 mgに対する非劣性が示され、通院の間隔をあけられるという利点も示されました。
- ファリシマブ(Vabysmo) ― VEGF-Aとアンジオポエチン-2を同時に抑える二重特異性抗体です。この2つは、新しい血管ができることと、血管から水分が漏れることに関わる、互いを補い合う経路です。TENAYA試験とLUCERNE試験(Heierら、Lancet、2022年)では、一部の患者さんで注射の間隔を16週間まであけられ、そのときの見え方の結果は、8週間ごとのアフリベルセプト2 mgと同じ程度であることが示されました。
- ラニビズマブ(Lucentis) ― 滲出型の加齢黄斑変性の治療を切り開いた抗VEGF-A薬です。患者さんの状態と、その時々の推奨に応じて、今も一部の場面で用いられています。
一部の病院で適応外として用いられているベバシズマブ(Avastin)は、当院の治療には含めていません。
治療の進め方:導入期、そしてtreat-and-extend
治療は、月1回の注射を3回行う導入期から始めます。はたらいている新生血管を早く鎮めるためです。そのあとはtreat-and-extend(T&E、間隔をのばしていく方法)で進めます。受診のたびにOCTで活動性を確かめ、次の注射までの間隔を調えるやり方です。網膜が乾いていれば少しずつ間隔をのばし、ぶり返していれば間隔をつめます。目指すのは、できるだけ少ない注射で網膜に水分をためないでおくことです。それによって見え方を守り、治療の負担を抑えます。
実際には、最近の抗VEGF薬を使う場合、はじめの1年におよそ6〜8回の注射を受けることが多く、新生血管の活動が落ち着いてくるにつれて、必要な注射の回数は少しずつ減っていく傾向にあります。
専用の処置室で行う注射
硝子体内注射は、カシャンとパリ13区の専用の処置室で、Société Française d’Ophtalmologie(SFO、フランス眼科学会)とHaute Autorité de Santé(HAS、フランス高等保健機構)の推奨にしたがって行っています。厳しく無菌を保った状態で、皮膚と結膜をポビドンヨードで消毒し、点眼麻酔をしたうえで、毛様体扁平部(pars plana)から注射します。処置は数分で終わり、痛みはごく軽く、短い確認のあと、すぐにお帰りいただけます。
知っておいていただきたい副作用として、24〜48時間ほど続く、目に何か入っているような感じと、心配のいらない小さな結膜下出血があります。いずれもよくあることで、心配はいりません。またごくまれに眼内炎(目のなかの感染)が起こることがあり、今日の条件では、その頻度はおよそ3,000〜5,000回の注射に1件とされています。どの患者さんにも、かならず次のようにお願いしています。注射から数日のあいだに、いつもと違う目の痛み、急な視力の低下、強い赤みがあれば、すぐに受診してください。
光線力学的療法(PDT)― 必要な場合のご紹介
滲出型の加齢黄斑変性のなかには、特別な形があります。とくにポリープ状脈絡膜血管症は、抗VEGF薬だけでは十分に反応しないことのある型で、ベルテポルフィンを用いた光線力学的療法(PDT)を組み合わせることがあります。当院ではPDTは行っておらず、その場合は専門の施設をご紹介したうえで、経過観察は緊密に連携して続けます。
Tourabaly医師の考え
「加齢黄斑変性は、今も患者さんに強い不安をもたらす病気です。目が見えなくなるのではないかと恐れておられます。私の役目は、この病気をありのままの姿に置きなおすことです。まわりの視野はつねに保たれること、萎縮型は何年もかけてゆるやかに進むこと、そして滲出型は、早い段階で手当てできれば、今日では大多数の場合に落ち着かせられることです。2つの診療所にOCTとOCTアンギオグラフィーがあり、その場の専用の処置室で注射まで行えることで、診療の流れがとどこおりません。それが、長い目で見た結果にはっきりとした違いを生みます。」
受診の流れ
- カシャンの診療所(94) ― 診察、OCT Cirrus 6000、専用の処置室での硝子体内注射。電話:+33 1 45 47 08 11。
- パリ13区の診療所 ― Diabet’ ― 診察、超広角のOCT-Aをそなえたスウェプトソース方式のOCT TowardPi YAlkaid、専用の処置室での硝子体内注射。電話:+33 1 89 31 30 60。
診察のご予約は Doctolib から直接お取りいただけます。最近になってものがゆがんで見えるようになったときや、中心に暗点が現れたときは、いつもの予約の日を待たず、早めに受診してください。
よくあるご質問
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参考文献
- Age-Related Eye Disease Study 2 (AREDS2) Research Group, Chew EY, Clemons TE, et al. Lutein + zeaxanthin and omega-3 fatty acids for age-related macular degeneration: the Age-Related Eye Disease Study 2 (AREDS2) randomized clinical trial.(加齢黄斑変性に対するルテイン+ゼアキサンチンとオメガ3脂肪酸:AREDS2無作為化臨床試験)JAMA. 2013;309(19):2005-2015. PMID:23644932
- Heier JS, Khanani AM, Quezada Ruiz C, et al. Efficacy, durability, and safety of intravitreal faricimab up to every 16 weeks for neovascular age-related macular degeneration (TENAYA and LUCERNE): two randomised, double-masked, phase 3, non-inferiority trials.(新生血管を伴う加齢黄斑変性に対する、最長16週間ごとのファリシマブ硝子体内投与の有効性、持続性、安全性(TENAYAおよびLUCERNE):2件の無作為化二重遮蔽第3相非劣性試験)Lancet. 2022;399(10326):729-740. PMID:35085502
- Lanzetta P, Korobelnik JF, Heier JS, et al. Intravitreal aflibercept 8 mg in neovascular age-related macular degeneration (PULSAR): 48-week results from a randomised, double-masked, non-inferiority, phase 3 trial.(新生血管を伴う加齢黄斑変性に対するアフリベルセプト8 mgの硝子体内投与(PULSAR):無作為化二重遮蔽非劣性第3相試験の48週成績)Lancet. 2024;403(10432):1141-1152. PMID:38461841
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