白内障・プレミアム眼内レンズ
プレミアム眼内レンズ:白内障手術のEDOF・多焦点・トーリック
白内障手術では、濁った水晶体を取り除き、眼内レンズ(IOL)に入れ替えます。Assurance Maladie(フランスの公的医療保険)の給付対象となる標準的な単焦点レンズのほかに、ふだんの見え方の習慣に応じて眼鏡への依存を軽減するプレミアム眼内レンズがあります。4つのタイプの全体像、選択の基準、費用の負担についてご説明します。
プレミアム眼内レンズとは
標準的な単焦点レンズは、ひとつの距離だけに焦点を合わせます。多くは遠方に合わせるため、読書や中間距離では眼鏡が必要です。Assurance Maladie(フランスの公的医療保険制度)が全額を給付する基準のレンズであり、手術後に矯正眼鏡をかけることをまったく問題としない方には、よく適したレンズです。
プレミアム眼内レンズとは、光学設計によって追加のニーズに応えられる眼内レンズの総称です。角膜乱視の矯正、無理のない中間距離の見え方、複数の距離での鮮明な見え方などがこれにあたります。これらのレンズの上乗せ費用は Assurance Maladie の給付対象外で、自己負担が生じます。金額は眼内レンズの種類と、ご加入の mutuelle(フランスの民間補完医療保険)の契約内容によって変わります。具体的な金額はすべて白内障の費用のページにまとめています。
押さえておきたいこと
プレミアム眼内レンズを選ぶことは、長期にわたる見え方の快適さへのご自身の投資です。適した選択は、ライフスタイル、乱視の有無、期待する見え方をていねいに確認したうえで、診察のなかで決まります。
プレミアム眼内レンズの4つのタイプ
標準的な単焦点レンズのほかに、現在の技術では、光学的な目的がそれぞれ異なる4つのタイプのプレミアム眼内レンズが用意されています。
- トーリックレンズ:近視や遠視の矯正に加えて、もともとある角膜乱視を矯正します。鮮明に見えるのは1つの距離(多くは遠方)です。
- EDOFレンズ(Extended Depth of Focus:焦点深度拡張型):鮮明に見える範囲を、遠方から中間距離へと広げます。夜間のハローはごくわずかです。
- 多焦点レンズ(2焦点または3焦点):複数の距離(遠方、中間、近方)で鮮明な見え方が得られ、眼鏡に頼らない状態を目標とします。
- トーリック仕様の多焦点レンズまたはEDOFレンズ:乱視の矯正と、多焦点性または焦点深度の拡張とを組み合わせたものです。最も対応範囲の広いタイプです。
EDOFレンズ(焦点深度拡張型)
EDOFレンズは、多焦点レンズのように複数の焦点をつくるのではなく、鮮明に見える範囲を光学的に引き伸ばします。その結果、遠方視力は良好で、中間距離(パソコン、車のメーターまわり)も無理なく見えます。細かい字を長時間読むときには老眼鏡が必要になることもありますが、その頻度は単焦点レンズよりかなり少なくなります。
EDOFは、画面を見る時間が長い方、運転の機会が多い方、夜間のハローが心配な方にとくに適しています。ハローやまぶしさの起こり方は、従来型の多焦点レンズよりはっきり良好です。技術的な詳細、取り扱いのあるメーカー、適した方の条件、多焦点レンズとの比較はEDOFレンズの専用ページをご覧ください。
多焦点レンズ(2焦点/3焦点)
多焦点レンズは、複数の焦点を同時につくります。多くは3つで、遠方、約60〜80cmの中間距離、約40cmの近方です。すべての距離で眼鏡に頼らない状態を目指します。手術後にいっさい眼鏡を使いたくない方にとって、最も踏み込んだ選択肢です。
最新世代の多焦点レンズ(近年の3焦点レンズや、EDOFとのハイブリッド型)にはトーリック仕様もあり、老視と乱視を1回の手術で同時に矯正します。これらの新しい光学設計は、遠方・中間・近方をカバーしながら、夜間のハローを抑えることを目指しています。
その代償として、とくに夜間に、ハローやまぶしさを感じる頻度が高くなります。受け入れられるかどうかは、お一人おひとりの感じ方と、生活での使い方によって大きく変わります。機種の一覧(3焦点のPanOptix、FineVision、Synergy)、禁忌、満足度は多焦点レンズの専用ページをご覧ください。
トーリックレンズ(乱視の矯正)
強い角膜乱視(目安として > 0.75ジオプトリー)は、白内障手術を受けただけでは自然になくなりません。トーリックレンズを使わなければ、手術後もこの乱視が残り、遠くを見るときにも眼鏡が必要になります。
トーリックレンズは、光学面に円柱矯正が組み込まれており、角膜の乱視軸に合わせて水晶体嚢のなかで向きを定めます。手術時の正確な操作が欠かせません。トーリックレンズには、単焦点タイプ、EDOFトーリックタイプ、多焦点トーリックタイプがあります。技術的な詳細と手術中の軸合わせの精度はトーリックレンズの専用ページをご覧ください。乱視がある場合の白内障については白内障と乱視をご覧ください。
自分に合う眼内レンズの選び方
すべての方に当てはまる万能な眼内レンズはありません。適した選択は、日常の習慣、目の解剖学的な条件、そして光学的な妥協をどこまで受け入れられるかによって変わります。診察では、次の4つの観点から判断します。
- 主な活動:1日8時間画面に向かう会計士と、夜間に走る大型トラックの運転手、細かい工具を扱う職人とでは、必要な見え方が異なります。
- 夜間のハローをどこまで許容できるか:これは率直にお聞きします。眼鏡から解放されるかわりに、ライトのまわりにハローが見えることを受け入れられますか? 受け入れられる方もいれば、そうでない方もいます。
- 角膜乱視:角膜形状解析(トポグラフィー)で正確に測定します。乱視が強い場合は、単焦点タイプであってもトーリックレンズが必要になります。
- 網膜の病気の有無:加齢黄斑変性や糖尿病網膜症があると、多焦点レンズの利点は限られます。その効果は網膜が健全であることを前提としているためです。血糖の検査と黄斑部のOCTが欠かせません。
診察で選択を決めるまでの流れ
術前の診察は、単なる事務的な手続きではありません。この先何十年もの見え方の快適さを左右する、重要な時間です。私が実際に行っている流れは次のとおりです。
- くわしい問診:職業、趣味、画面を見る時間、運転(とくに夜間)、スポーツ、これまでに自覚している見え方の敏感さ。
- 客観的な検査:IOLMaster 700による眼軸長測定(生体計測)、角膜形状解析(多焦点レンズの禁忌となる不正乱視を見つけるため)、黄斑部OCT(網膜中心部が健全かどうか)、暗所瞳孔径の測定。
- 選択肢のご説明:4つのタイプの眼内レンズについて、利点と限界の両方をご説明し、選択ごとの自己負担額を明確に示します。
- いっしょに決める:こちらから特定の眼内レンズを押しつけることはありません。診察を終えるときには、選んだ内容とその理由がはっきりした状態になっています。
この検査の具体的な内容は、白内障の術前検査のページでくわしくご説明しています。
保険給付と自己負担
手術そのもの(超音波水晶体乳化吸引術)と標準的な単焦点レンズは、Assurance Maladie が全額を負担します。プレミアム眼内レンズを選んだ場合、上乗せ分は給付の対象になりません。自己負担額は、眼内レンズの種類(トーリック、EDOF、多焦点)と、ご加入の mutuelle(民間の補完医療保険)の契約内容によって決まります。補償が手厚い一部の mutuelle では、この追加費用の一部または全額が補償されます。実際の手術は、濁った水晶体を取り除き、選んだ眼内レンズに入れ替えるという内容です。ご負担が生じうるのは、プレミアム眼内レンズ(トーリック、3焦点、EDOF)にかかわる術者の手技料と、レンズの差額分だけです。お決めいただく前に、私のアシスタントからくわしいお見積もりをお渡しします。具体的な金額は白内障の費用をご覧ください。
重要な数値
多焦点眼内レンズを評価した文献のメタアナリシスでは、白内障手術後、適切に選択された患者において眼鏡に頼らずに過ごせる割合は70〜90%と報告されています(Rosen et al., JCRS 2016, PMID 27026457)。
期待できる結果と患者さんの声
近年のヨーロッパの研究や登録データでは、プレミアム眼内レンズで手術を受けた患者の満足度は高いと報告されています。ただしこれは、適応の慎重な選択と、限界についての明確な説明が前提です。神経順応、つまり新しい光学特性に脳が慣れるまでの期間は、通常4〜12週間で、多焦点レンズではさらに長くかかることもあります。
私が手術を担当した患者さんは、患者さんの声のページやGoogleのプロフィール(1,000件以上の口コミ、平均評価4.9/5)で、たびたび感想を寄せてくださっています。そこには、手術後の実際の経過、感じられた効果、そして神経順応の途中で戸惑った点などが具体的に語られています。
よくあるご質問
白内障の検査と眼内レンズのご相談
診察、術前検査一式、眼内レンズの選択は、カシャンまたはパリ13区の診療所で行います。手術は Clinique Sainte-Geneviève(パリ14区)で行います。
参考文献
- Rosen E, Alió JL, Dick HB, et al. Efficacy and safety of multifocal intraocular lenses following cataract and refractive lens exchange: Metaanalysis of peer-reviewed publications(白内障手術および屈折矯正水晶体置換術後の多焦点眼内レンズの有効性と安全性:査読論文のメタアナリシス). J Cataract Refract Surg. 2016;42(2):310-328. PMID 27026457.
- Kohnen T, Berdahl JP, Hong X, Bala C. A multicenter, prospective, randomized, parallel-group, comparative study evaluating the clinical outcomes of a new Extended Depth-of-Focus intraocular lens(新しい焦点深度拡張型眼内レンズの臨床成績を評価した多施設・前向き・無作為化・並行群間比較試験). J Cataract Refract Surg. 2022;48(2):144-150. EDOFと多焦点レンズの比較研究。PMID 34653094.
- Schallhorn SC, Teenan D, Venter JA, et al. Monovision LASIK versus presbyopia-correcting IOLs: comparison of clinical and patient-reported outcomes(モノビジョンのレーシックと老視矯正眼内レンズの比較:臨床成績と患者報告アウトカム). J Refract Surg. 2017;33(11):749-758. PMID 29117414.
- Haute Autorité de Santé(フランス高等保健機構). Chirurgie de la cataracte chez l’adulte : recommandations de bonne pratique(成人の白内障手術:診療ガイドライン). HAS, 2018(2024年改訂).
本ページは眼内レンズの主なタイプについての情報提供であり、お一人おひとりの検査に代わるものではありません。最終的な選択は、必要な検査をすべて行ったうえで、診察のなかで決まります。