白内障・後発白内障
後発白内障:5分で終わるYAGレーザー後嚢切開
白内障の手術から数か月たって、また見え方がぼやけてきていませんか。多くの場合それは後発白内障で、手術をせずに、診療所でYAGレーザーによる後嚢切開を数分行うだけで治療できます。
後発白内障とは何か
「後発白内障」という言い方は広く使われていますが、じつは誤解を招く呼び名です。白内障が再発したわけではありません。手術で入れた眼内レンズが濁ることはないからです。濁るのは水晶体嚢の後ろ側(後嚢)です。もともとの水晶体の後ろにあった薄く透明な膜で、眼内レンズを支えるために手術のときに残しておいた部分です。
時間がたつと、もとの水晶体に残っていた上皮細胞がこの膜の上に移り、線維化して濁ることがあります。これを後嚢混濁、略してPCOと呼びます。見え方は少しずつぼやけ、まるで白内障が戻ってきたように感じられます。「後発白内障」という通称は、ここから来ています。
起こる頻度と、起こりやすい条件
後嚢混濁は、白内障手術のあと、数年のうちに最も多くみられる合併症です。5年間で積み上げた頻度は文献によって幅があり、手術を受けた目のおよそ10〜30%とされています。患者さんの年齢、眼内レンズの種類、手術の術式によって大きく変わります。
起こりやすさに関わることとして、次が報告されています。
- 手術を受けた年齢が若いこと(50歳より前に手術を受けた方では、後嚢混濁がより多くみられます)
- 強い近視、あるいはもともとぶどう膜炎があること
- 血糖の整っていない糖尿病
- 眼内レンズの素材と設計(角のはっきりした縁をもつ機種では、起こりにくさがはっきり違います)
- 手術中に水晶体嚢をどれだけていねいに磨いたか。
現在の眼内レンズは、角のはっきりした縁と疎水性の素材をもち、以前の世代に比べて後嚢混濁の起こり方をかなり抑えています。現れるまでの期間は、手術から数か月のこともあれば、数年のこともあります。
どのような症状が出ますか
患者さんが訴えられるのは、多くの場合、次のような症状です。
- 視力が少しずつ落ちること。はじめは夜間に、やがて日中も感じられます
- まぶしさがまた現れること。とくに夜間の運転で感じられます
- 光のまわりにハローがまた見えるようになること
- 「乳白色がかった」ような、あるいは薄く膜がかかったような見え方
- 数週間のうちに、気づかないうちにコントラストと鮮明さが落ちていくこと。
これらの症状は、はじめの白内障のときとよく似ています。ただし今回は、濁っているのは水晶体嚢の後ろ側だけで、水晶体そのものではありません(水晶体はすでに取り除かれています)。散瞳のうえで細隙灯顕微鏡による診察を行えば、眼内レンズの後ろにある濁りが見えるため、その場で診断がつきます。
治療:YAGレーザーによる後嚢切開
後発白内障の標準的な治療は、Nd:YAGレーザーによる後嚢切開です。手術ではなく、Tourabaly医師の診療所で行うレーザー治療です。切り開くことも、切開を加えることもありません。レーザーは角膜を通り抜け、離れたところから水晶体嚢の後ろ側にはたらいて、中央に開き窓をつくります。
どのように進みますか
- 散瞳の点眼薬をさします(15〜30分お待ちいただきます)
- 麻酔の点眼薬をさします。治療のときに痛みを感じることは、通常ありません
- レーザーの焦点を正しく合わせるため、専用のコンタクトレンズをのせます
- 水晶体嚢の後ろ側に数十発のレーザーを当て、4〜5mmの円形の開き窓をつくります
- 全体の所要時間は数分です
- そのまま診療所をお出になれます。眼帯も、保護カップも必要ありません。
結果
見え方はとても早く改善し、多くは、開いた瞳孔が元に戻ったあと、数時間のうちによくなります。眼内レンズの後ろにある水晶体嚢を開くには、まず瞳孔を開いておく必要があります。レーザーが眼内レンズそのものに当たることはなく、そのぶん見え方の回復もはっきりしたものになります。効果は元に戻りません。YAGレーザーでつくった開き窓が「またふさがる」ことはなく、やり直しも必要ありません。近年の多施設研究では、視力が平均して20/40(およそ0.5)から20/23(およそ0.9)へ改善し、99%の患者さんが満足したと答え、無視できない合併症は認められなかったと報告されています(Lighthizer et al., 2023)。
レーザーのあとに知っておいていただきたいこと
YAGレーザーの治療にarrêt de travail(フランスの休業証明書)は必要ありません。ふだんの生活(読書、画面、瞳孔の開きが戻ってからの運転、スポーツ、水浴び)は、すぐに元どおりにしていただけます。ただし、数日のうちに次のようなことに気づかれることがあります。
- 飛蚊症(「飛んで見える蚊のような影」)が新たに見えること。硝子体のなかに放たれた水晶体嚢のかけらによるものです。多くは、数週間のうちに自然に目立たなくなります。
- 眼圧が一時的に上がること(まれで、元に戻ります)。1時間後と1週間後に、眼圧を測る診察を予定します。
- はじめの数日、光のまわりにわずかなハローが見えること。
数日のあいだ、ステロイド性の抗炎症薬の点眼を処方することがあります。大多数の場合、ほかの治療は必要ありません。
合併症と限界:包み隠さずお伝えします
YAGレーザーによる後嚢切開は、安全性の高い治療です。報告されている合併症はごくまれですが、あらかじめ知っておいていただくために、以下にご説明します。
- 眼圧が一時的に上がること(3%未満)。ほとんどの場合、元に戻ります
- 目のなかの中くらいの炎症。抗炎症薬の点眼で抑えられます
- 数週間のあいだ、新たな飛蚊症が見えること
- 眼内レンズの点状の傷(「pit」):レーザーが残す、ごく小さな跡です。見え方に影響はありません
- 黄斑浮腫:まれです(1%未満)。治療によって元に戻ります
- 網膜剥離:ごくまれですが、実際に起こりうる合併症です。後嚢切開のあとは、そのおそれがわずかに高くなり、とくに強度近視の方で高くなります。光が走って見える、飛蚊症がたくさん見える、黒いカーテンのような影が見えるといったことがあれば、緊急で受診してください。
Tourabaly医師は、後嚢切開の前に必ず眼底の診察とOCTを行います。周辺部の網膜裂孔や、先に治療しておくべき網膜の弱いところがないかを確かめるためです。
よくあるご質問
白内障が再発したのですか?
いいえ。眼内レンズが濁ることはありません。濁るのは、眼内レンズを包んでいる水晶体嚢の後ろ側です。「後発白内障」という呼び名は古くから使われてきた通称で、医学的に正確な言い方は「後嚢混濁」(PCO)です。
YAGレーザーによる後嚢切開は痛いですか?
いいえ。麻酔の点眼をしたうえで行います。感じられるのは、小さなカチカチという音と、光が走る感じだけです。レーザーは数分で終わります。
絶食は必要ですか?
いいえ。全身麻酔を行わないため、絶食も必要ありません。ふだんどおり食事をとってお越しいただけますし、お一人でお帰りいただけます。ただし、開いた瞳孔が元に戻るまでの4〜6時間は、運転をお控えください。
いつからふだんの生活に戻れますか?
すぐに戻れます。ただし、開いた瞳孔が元に戻るまでの4〜6時間は運転をお控えください。arrêt de travail(休業証明書)は必要なく、スポーツの制限も、水浴びの禁止もありません。
YAGレーザーは保険で給付されますか?
はい。YAGレーザーによる後嚢切開は、Assurance Maladie(フランスの公的医療保険)が全額を給付します。secteur 2(診療報酬の自由設定が認められた区分)の医師による dépassement d’honoraires(保険の基準額を超える医師の追加料金)がかかる場合は、書面でお知らせします。多くの場合、mutuelle(フランスの民間補完医療保険)が補償します。
レーザーをやり直すことはありますか?
いいえ。後嚢切開の効果は元に戻りません。水晶体嚢の後ろ側につくった開き窓は、ふさがることがないからです。時間がたってから視力が下がった場合には、ほかの原因(加齢黄斑変性、緑内障、網膜の病気)がないか、あらためて検査で確かめる必要があります。
「Membranule(薄い膜)」と後発白内障:どういう意味ですか
「Membranule」は、眼内レンズの後ろにできる薄い膜を指して、患者さんが使われることのあるフランス語の俗な言い方です。医学的に正確な言い方は「後嚢混濁」で、眼内レンズを支えている水晶体嚢が厚くなり、見え方を濁らせる状態をいいます。YAGレーザー(後嚢切開)は、この膜を数分で開きます。
YAGレーザーのあと、気をつけることはありますか?
その後の経過は簡単です。数日のあいだ、抗炎症薬の点眼を処方することがあります。開いた瞳孔が元に戻るまでの4〜6時間は、運転をお控えください。飛蚊症(黒い点)が一時的に見えることがあります。数日のうちに、膜がかかったような見え方、黒い点が雨のようにたくさん見えること、光が走る感じが続くことがあれば、受診してください。
白内障の手術のあと、また見え方がぼやけていませんか
診察はカシャン(94)またはパリで行います。YAGレーザーによる後嚢切開は、そのまま診療所で行います。
科学的な参考文献
- Lighthizer N et al. Nd:YAG Laser Capsulotomy: Efficacy and Outcomes(Nd:YAGレーザー後嚢切開術:有効性と成績). Optom Vis Sci. 2023 ;100(10):665-669. DOI : 10.1097/OPX.0000000000002057
- Huang AY, Rao N, Armenti ST. Dropless Cataract Surgery: A Review of the Literature(点眼を用いない白内障手術:文献レビュー). Int Ophthalmol Clin. 2025 ;65(2):44-54. DOI : 10.1097/IIO.0000000000000560
- Wormstone IM. Posterior capsule opacification: a cell biological perspective(後嚢混濁:細胞生物学の視点から). Exp Eye Res. 2002. PMID : 12014915.
- Bai L, Zhang J, Chen L, et al. Comparison of posterior capsule opacification at 360-degree square edge hydrophilic and sharp edge hydrophobic acrylic intraocular lens in diabetic patients(糖尿病患者における、全周に角のある親水性眼内レンズと鋭い縁をもつ疎水性アクリル眼内レンズの後嚢混濁の比較). Int J Ophthalmol. 2015. PMID : 26309870.
- Leydolt C, Schartmüller D, Schwarzenbacher L, et al. Posterior Capsule Opacification With Two Hydrophobic Acrylic Intraocular Lenses: 3-Year Results of a Randomized Trial(2種類の疎水性アクリル眼内レンズにおける後嚢混濁:無作為化試験の3年成績). Am J Ophthalmol. 2020. PMID : 32335056.
- Dot C, Schweitzer C, Labbé A, et al. Incidence of Retinal Detachment, Macular Edema, and Ocular Hypertension after Nd:YAG Capsulotomy — The French YAG 2 Study(Nd:YAG後嚢切開術後の網膜剥離、黄斑浮腫、眼圧上昇の発生率:フランスYAG 2研究). Ophthalmology. 2023. PMID : 36581227.
- Rajpoot M, Nehra H, Sharma V, et al. How Safe is Nd:YAG Laser Capsulotomy in Patients with Uveitis? Outcomes of a Long-Term Study(ぶどう膜炎のある患者におけるNd:YAGレーザー後嚢切開術の安全性:長期研究の成績). J Curr Ophthalmol. 2024. PMID : 39553324.
本ページは、眼科の手術を行う医師である Moïse Tourabaly医師が、情報提供を目的として作成したものです。医師の診察に代わるものではありません。