虹彩:解剖、役割、眼の色、そして病気
虹彩は眼の色のついた膜で、角膜のうしろにあるこの円板が、青や緑や茶といった眼の色をつくっています。その中央に開いているのが瞳孔です。互いに反対に働く二つの筋肉でその直径を変えることで、虹彩は網膜に届く光の量を絶えず調節しています。カメラの絞りとまったく同じ働きです。虹彩の構造、役割、そして病気を知っておくと、眼科医との話がかみ合いやすくなります。
理解する
虹彩とは何か
虹彩は、円い形をした、色のついた、縮んだり広がったりする膜で、眼の血管に富んだ層であるぶどう膜のいちばん前の部分にあたります。透明な角膜のすぐうしろ、水晶体の手前にあり、前房を満たす房水のなかに浮かんでいます。その中央の孔である瞳孔は、光が網膜まで入っていける唯一の通り道です。
いちばん分かりやすいたとえは、カメラの絞りです。虹彩はピント合わせには関わりません(それは角膜と水晶体の役目です)。虹彩が受け持っているのは、光学系に入れる光の量を細かく加減することです。明るいところでは縮んで網膜を守り、同時に被写界深度を深くします。薄暗いところでは広がって、届く光をできるだけ多く取り込みます。
成人では、虹彩の直径はおよそ12mmです。瞳孔は、明るいところでのおよそ2mmから、まったくの暗闇での8mmまで変わります。面積にすれば16倍の幅です。この大きな振れ幅のおかげで、人の眼はきわめて広い明るさの範囲で働くことができます。
解剖
虹彩の構造と層
虹彩はいくつかの層が重なってできていて、それぞれがはっきりした役割を担っています。前面(角膜側)から後面(水晶体側)へ向かって、次のように分けられます。
前境界層と実質(ストローマ)
虹彩の前面には、続いた上皮がありません。そこにあるのは実質(ストローマ)の前縁で、線維芽細胞、色素細胞(メラノサイト)、血管に富んだ疎な結合組織です。虹彩の見た目の色をつくるメラニンを持っているのが、この実質です。細隙灯顕微鏡(スリットランプ)で見えるそのわずかに不ぞろいな表情が、虹彩小輪、大虹彩動脈輪、そして一人ひとり異なる隆起の模様をかたちづくっています。その模様は個人の識別のために生体認証にも使われているほどです。
瞳孔の筋肉:括約筋と散大筋
自分の意志では動かせない二つの平滑筋が、瞳孔の直径を決めています。
- 瞳孔括約筋:瞳孔の縁の近く、実質の深いところにある同心円状の輪の筋肉です。縮むと瞳孔が小さくなります(縮瞳)。動眼神経(第III脳神経)の副交感神経線維が、毛様体神経節を経て支配しています。
- 瞳孔散大筋:実質と後面の上皮のあいだに、放射状に並んだ筋上皮細胞の層です。縮むと瞳孔の縁を外側へ引き、瞳孔が大きくなります(散瞳)。視床下部から脊髄へ下る経路から出た交感神経線維が支配しています。
この二つの筋肉は互いに反対に働きます。副交感神経と交感神経のどちらが優勢かという釣り合いが、そのときどきの瞳孔の直径を決めています。恐れ、緊張、痛み(交感神経の高まり)で瞳孔が大きくなり、強い光や一部の薬(副交感神経の高まり、あるいは交感神経の遮断)で小さくなるのは、そのためです。
後面の色素上皮
虹彩の後面は、メラニンをぎっしり含んだ二層の色素上皮におおわれています。この黒い膜は遮光板の役割を果たし、瞳孔以外のところから光が虹彩を通り抜けないようにして、眼のなかで余計な反射が起こるのを防いでいます。この層が傷つくと(外傷、炎症、一部の手術のあと)、羞明(まぶしさ)や、わずらわしい光のにじみが起こることがあります。
役割
虹彩の役割:絞り、反射、そして近方視
虹彩には、互いに補い合う三つの役割があります。いずれも光の調節と見え方の質に関わるものです。
光の量を調節する
これが第一の働きです。強い光のもとでは、瞳孔が縮んで網膜に届く光の量を減らし、まぶしさから守ります。弱い光のもとでは、広がって感度を最大にします。この仕組みは、まわり全体の明るさに応じても、見ているものに応じても働きます。光源をまっすぐ見つめれば、まわりの明るさとは関わりなく、その場で瞳孔が縮みます。
対光反射
光が網膜に届くと、その信号は視神経を通って中脳の視蓋前域核まで運ばれ、そこからエディンガー・ウェストファル核を働かせ、毛様体神経節を経て瞳孔括約筋を動かします。瞳孔はほんの一瞬で小さくなります。これが直接対光反射です。同時に、光を当てていないもう一方の眼も縮みます。これが間接対光反射です。
この反射は臨床で大きな手がかりになります。片側だけ失われていれば、同じ側の視路か動眼神経の障害が疑われます。眼科医は診察のたびに、ペンライトでこれを確かめます。頭部外傷のあとでこの反射がないことは、神経の重い異常を示す警告のサインです。
近くを見るときの三つの動き
近くを見るとき、眼は三つの仕組みを同時に働かせます。近見反応と呼ばれる三徴、すなわち水晶体の調節、両眼の輻湊(内寄せ)、そして瞳孔の縮小です。この近くを見るときの縮瞳は被写界深度を深くします。カメラのレンズで絞りを絞り、近くをはっきり写すのと少し似ています。ですから虹彩は、まぶしさから守るだけの器官ではなく、近くをはっきり見るための立役者でもあるのです。
覚えておきたいこと
虹彩は光を調節し、対光反射に関わり、近くをはっきり見ることを支えています。眼科医が細隙灯顕微鏡で虹彩を診ることで、眼の前眼部の状態を評価し、いくつかの病気を早い段階で見つけることができます。
色

眼の色:メラニン、遺伝、そして個人差
眼の色は主に、虹彩実質のなかのメラニンの量と、その散らばり方で決まります。よく思われているのとは違い、眼のなかに青い色素や緑の色素があるわけではありません。あの色合いの多様さは、メラニンというただひとつの色素と、組織のなかで光が散らばる効果との組み合わせから生まれています。
青、緑、茶が生まれる仕組み
メラニンの多い虹彩は、ほとんどの波長の光を吸い込むため、濃い茶色に見えます。メラニンの少ない虹彩は実質にほとんど色素がなく、そこでは結合組織によって光が散らばります。チンダル現象になぞらえられる散乱の効果です(空が青く見えるのと同じ現象です)。そのため虹彩は青く見えます。灰色、緑、ヘーゼルといった色合いは、メラニンの量と散らばり方がその中間にあたるものです。
一方、後面の上皮は、見た目の眼の色にかかわらず、つねに濃く色素を含んでいます。これは誰にでも共通した層で、先ほどご説明した遮光板の役割を担っています。
眼の色の遺伝
眼の色は遺伝しますが、複数の遺伝子が関わっていて、単純なメンデル型にはなりません。第15染色体にあるOCA2とHERC2という遺伝子が、虹彩でのメラニン産生の調節に大きく関わっています。ほかの遺伝子も、こまかな色合いの違いをつくっています。
ですから、両親がともに茶色の眼でも、それぞれがメラニンの産生を抑える型を持っていれば、明るい色の眼の子どもが生まれることがあります。逆に、両親がともに青い眼で茶色の眼の子どもが生まれることは、ごくまれです。ほとんどの組み合わせで茶色の形質が優性になるからです。
赤ちゃんの眼の色
生まれたとき、白人系の赤ちゃんの多くは青灰色の眼をしています。虹彩のメラニンがまだ十分に沈着していないためです。最終的な色は、実質のメラノサイトが働き始めるにつれて、生後数か月のあいだに、ときには1歳ごろまでかけて少しずつ定まっていきます。肌の色の濃い子どもでは、メラニンの沈着が早いため、生まれたときからすでに濃い色の眼であることが多くみられます。
病気
虹彩の病気:知っておきたいこと
虹彩には、いくつもの異常や病気が起こりえます。単なる解剖学的な個性にすぎないものから、急いで眼科で診てもらう必要があるものまでさまざまです。
前部ぶどう膜炎(虹彩炎)
前部ぶどう膜炎は虹彩炎とも呼ばれ、虹彩と毛様体の炎症です。典型的には、鈍い眼の痛み、角膜のまわりが赤くなる毛様充血、羞明、そして視力の低下として現れます。虹彩と水晶体が癒着(虹彩癒着)すると、瞳孔の形がいびつになることもあります。前部ぶどう膜炎は全身の病気(強直性脊椎炎、サルコイドーシス、ベーチェット病)や感染に伴うこともあれば、原因の分からない特発性のこともあります。放っておくと白内障や緑内障といった重い合併症につながるため、早めに眼科を受診し、それに合った抗炎症の治療を受ける必要があります。
瞳孔不同
瞳孔不同とは、左右の眼で瞳孔の直径が違うことをいいます。1mm未満のわずかな瞳孔不同は生理的なもので、およそ5人に1人にみられ、病気ではありません。一方、はっきりした瞳孔不同が急に現れ、眼の痛み、眼瞼下垂(まぶたが下がること)、そのほかの神経の症状を伴う場合は、急いで受診してください。動眼神経の障害や、ホルネル症候群(Claude Bernard-Horner症候群)が隠れていることがあります。
虹彩異色症
虹彩異色症とは、左右の虹彩の色が違うこと(完全虹彩異色症)、あるいはひとつの虹彩のなかで色が違うこと(部分虹彩異色症、区域性虹彩異色症)をいいます。メラニンの分布がかたよっていることから生じます。ほとんどの場合は生まれつきで、変化せず、見え方にも影響しません。ただし、大人になってから少しずつ現れた虹彩異色症は、慢性の炎症、薬(プロスタグランジン関連薬の点眼薬には、眼の色を長く濃くするものがあります)、まれに腫瘍を示していることがあります。その場合は眼科で診てもらう意味があります。
虹彩コロボーマ
コロボーマは、胎生期の眼の裂け目が閉じきらなかったことから生じる先天性の異常です。虹彩に起こると、虹彩の下のほうに切れ込みができ、瞳孔が「鍵穴」や洋なしのような形になります。コロボーマは虹彩だけのこともあれば、網膜や視神経にまで及ぶ広い異常の一部であることもあり、見え方への影響もさまざまです。小児眼科で対応します。
虹彩の変化で注意すべきとき
虹彩にまつわる次のような症状は、待たずに眼科を受診する意味があります。
- 片眼の瞳孔が大きく開いたまま、光を当てても縮まない。とくに痛みを伴うとき
- 大人になってから少しずつ現れた虹彩異色症
- 赤み、痛み、羞明を伴う虹彩炎
- 虹彩が前方に膨らんでいる。房水の流れがふさがれているサインです
- 虹彩の上に、見慣れない盛り上がりや色素が見える
検査

虹彩はどのように調べるのか
虹彩は眼の前のほうにあるので、そのまま直接診ることができます。眼科医にはいくつかの道具があります。
- 細隙灯顕微鏡(スリットランプ):前眼部を診るための基本の検査です。虹彩の表面、隆起、血管、透明度を調べ、虹彩癒着、色素の沈着、気になる新生血管を見つけられます。
- ペンライト:対光反射をみる検査です。簡単で速く、診察室ですぐに行えます。
- 前眼部OCT(光干渉断層計):虹彩と隅角を断面の画像で見る検査です。前房の深さを評価し、隅角の角度を測り、一部の手術の計画を立てるのに役立ちます。
- 隅角鏡検査:虹彩と角膜のあいだの角度を診る検査で、緑内障を調べるうえで欠かせません。
手術
眼の手術のなかの虹彩
虹彩は、いくつもの眼科手術で目印となる大切な組織です。
レーザー虹彩切開術
虹彩切開術は、YAGレーザーで虹彩に小さな孔を作る処置です。これによって房水が後房と前房のあいだを自由に流れるようになり、瞳孔ブロックが起こって眼圧が急に上がるのを防げます。閉塞隅角緑内障の一部の型に対して、予防または治療として行います。点眼麻酔で、数分で終わる外来の処置です。
有水晶体眼内レンズ(ICL)と虹彩の位置
レーザーでは扱えない強い屈折異常を矯正する有水晶体眼内レンズ(ICL)の手術では、やわらかい眼内レンズを虹彩ともとの水晶体のあいだ、毛様溝と呼ばれる場所に入れます。虹彩はそのままで、手を加えません。ただし、虹彩と水晶体のあいだにどれだけの空間があるかは、前眼部OCTと「white-to-white」(角膜の横径)の測定で確かめ、それがそのままレンズのサイズ選びを左右します。虹彩の間隔が狭い場合や、解剖に個性がある場合には、適応や術式が変わることがあります。
一方、角膜に対する屈折矯正手術、すなわちレーシック、PRK、SMILEは虹彩には触れません。角膜の表層の形を整えるだけで、眼の後ろ側には手を入れないからです。これらの術式に虹彩は関わりません。
前眼部OCTと前房の測定を含む術前検査によって、手術の前に虹彩の形をきちんと確かめることができます。
よくある質問
虹彩についてよくある質問
虹彩と瞳孔は何が違いますか?
虹彩は眼の色のついた膜です。瞳孔は中央にある黒い孔で、光の入る量を調節するために虹彩が広げたり縮めたりしています。瞳孔はそれ自体が組織なのではなく、虹彩が空けている空間です。黒く見えるのは、眼のなかが光を吸い込むからです。
赤ちゃんの眼の色はなぜ変わるのですか?
白人系の赤ちゃんの多くは、生まれたときには眼が青く見えます。虹彩の実質にメラニンがまだ十分に沈着していないからです。生後数か月のあいだにメラノサイトが働き始め、最終的な色が定まります。多くは1歳になる前です。肌の色の濃い子どもではメラニンの沈着が早く、生まれたときからすでに濃い色をしています。
虹彩異色症とは何ですか。心配なものですか?
虹彩異色症とは、左右の眼で、あるいはひとつの虹彩のなかで色が違うことをいいます。生まれたときからあるものは、ほとんどの場合とくに害がなく、見え方にも影響しません。一方、大人になってから少しずつ現れた虹彩異色症は、その原因(炎症、点眼薬、まれに腫瘍)を調べる意味があるので、眼科で診てもらってください。
前部ぶどう膜炎とは何ですか?
前部ぶどう膜炎(虹彩炎)は、虹彩と毛様体の炎症です。眼の痛み、角膜のまわりの赤み、光に対する過敏、視力の低下として現れます。放っておくと白内障や緑内障といった合併症につながるため、早めに眼科を受診してください。
眼の色を変えるために虹彩を手術できますか?
眼の色を変えることを目的とした虹彩の美容手術は、その危険(慢性の炎症、眼圧の上昇、白内障)のためにすすめられません。プロスタグランジン関連薬の点眼薬のなかには、眼の色を少しずつ濃くするものがありますが、これは望ましくない副作用です。虹彩の色を長く変えるための、安全性が確かめられた手技は存在しません。
レーシックやPRKの手術に虹彩は関わりますか?
いいえ。レーシック、PRK、SMILEは角膜の表層の形を整えるだけです。これらの術式で虹彩に触れることはありません。一方、有水晶体眼内レンズ(ICL)を入れるときには、レンズがその場所に収まるため、虹彩と水晶体のあいだの空間をきちんと測ります。
対光反射とは何ですか?
眼に強い光を向けたときに、瞳孔がすぐに縮むことをいいます。自律神経が受け持っていて、自分の意志では動かせません。眼科医はこの反射を必ず確かめます。これが失われている場合、視神経、動眼神経、あるいは脳の神経路の障害を示していることがあるからです。
カシャン(Cachan)診療所 · 電話 +33 1 45 47 08 11
パリ13区診療所 · 電話 +33 1 89 31 30 60
出典
- Société Française d’Ophtalmologie(SFO、フランス眼科学会):前眼部の解剖と生理。虹彩、瞳孔、毛様体について。
- Collège des Ophtalmologistes Universitaires de France(COUF、フランス大学眼科教員団):眼の解剖。虹彩、対光反射、前部ぶどう膜炎について。
- Haute Autorité de Santé(HAS、フランス高等保健機構):屈折矯正手術と有水晶体眼内レンズに関するガイドライン。
- Ameli.fr:フランス公的医療保険のポータル。ぶどう膜炎と眼の炎症性疾患についての解説。
この記事は情報提供を目的としたもので、医師の診察に代わるものではありません。ご自身の虹彩の状態を確かめ、個別の診断を下し、ご自身に合った対応についてお話しできるのは、眼科の検査だけです。
パリとカシャンで、ひととおりの眼科検査を
Quinze-Vingts国立眼科病院の元 臨床医長(Chef de Clinique)であるMoïse Tourabaly医師が、細隙灯顕微鏡で眼の前眼部を診たうえで、ご自身の状況に合った方法をご案内します。
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執筆・監修: Dr Moïse Tourabaly、屈折矯正手術を専門とする眼科医 — キャンズ・ヴァン国立眼科病院(CHNO des Quinze-Vingts)元チーフレジデント。
最終更新: 1970年1月1日