水晶体:眼のレンズの役割、構造、そして老化
水晶体は眼のなかにある自然のレンズで、虹彩のうしろにある透明な組織です。近くも遠くもはっきり見えるように、ピントを合わせる働きをしています。若いうちは柔らかく、年齢とともに硬くなり、やがて濁っていきます。この少しずつ進む老化が、45歳ごろの老視と、60歳を過ぎてからの白内障を説明します。その構造と仕組みを知っておくと、いま選べる手術の意味もつかみやすくなります。
理解する
水晶体とは何か
水晶体は、透明でしなやかな両凸のレンズで、眼の前のほう、瞳孔と虹彩のすぐうしろに収まっています。直径はおよそ9〜10mm、厚さは4〜5mmです。もっとも大きな特徴は、血管も神経も含まないことです。だからこそ完全に澄んだままでいられ、光をさえぎることなく網膜まで届けられます。
水晶体は角膜とともに、眼の光学系をかたちづくっています。角膜は形が変わらず、ピントを合わせる力のおよそ3分の2を担います。残りの3分の1を担うのが水晶体ですが、水晶体にはほかにない働きがあります。眼のなかで唯一、自分の形を変えてあらゆる距離にピントを合わせられるのです。この働きを調節と呼びます。水晶体が眼全体の構造のなかでどこに位置するのかは、眼の解剖のページをご覧ください。
解剖
水晶体はどのような構造をしているのか
水晶体は玉ねぎのように、同心円状の層が重なってできています。その層は一生のあいだ増え続け、いちど作られたものが取り除かれることはありません。この造りが、水晶体の優れた光学的な性質と、避けられない老化の両方を説明します。
- 水晶体嚢(のう):水晶体全体を薄い膜のように包んでいる、弾力のある透明な膜です。白内障の手術では、この嚢を残して、そのなかに眼内レンズを収めます。嚢の丈夫さと弾力は、手術がうまく運ぶための大切な条件です。
- 水晶体上皮:前嚢の内側にある細胞の層で、一生を通じて新しい線維を作り続けています。
- 皮質:外側の層です。新しく作られた部分で、水分を多く含んで柔らかく、調節に大きく関わっています。
- 核:中心の部分で、もっとも古い層です。年齢とともに線維が詰まって硬くなっていきます。核白内障で濁りがもっとも強く出るのは、この核の部分です。
チン小帯:ピントを合わせる仕組み
水晶体は、チン小帯(zonule de Zinn)によって眼のなかに吊るされています。チン小帯は、水晶体の赤道部と毛様体のあいだに張られた、細く弾力のある線維の網です。毛様体筋が縮むとチン小帯のはりがゆるみ、外向きに引かれる力から解かれた水晶体は、自分の弾力でふくらんで屈折力を強めます。これが近くをはっきり見せてくれます。毛様体筋がゆるむと、逆にチン小帯が張って水晶体を平たくし、屈折力を弱めて遠くを見る状態にします。この繊細な仕組みはすべて自動で働き、一生のあいだに何百万回も繰り返されます。
役割

水晶体は何をしているのか:調節という働き
水晶体のいちばん大きな役割は、カメラレンズのオートフォーカスのように、あらゆる距離にピントを合わせることです。近くのものを見るときは、毛様体筋が縮んでチン小帯がゆるみ、水晶体がふくらみます。屈折力が強まり、網膜の上にはっきりした像が結ばれます。遠くを見るときは逆のことが起こり、水晶体が平たくなって屈折力が弱まり、遠くのものにピントが合います。
この絶え間ない行き来は、まったく意識されないまま起こります。これを調節と呼びます。子どもの水晶体はとりわけ柔らかく、ごく近くから無限遠まで、一瞬で切り替えられます。この力は、水晶体が硬くなるにつれて、年齢とともに少しずつ衰えていきます。
眼の光学系のなかの水晶体
調節のほかに、水晶体は天然のフィルターとしての役割も担っています。紫外線の一部を吸収し、日光が網膜に及ぼす害から守っているのです。この性質は、いまの眼内レンズにもある程度取り入れられていて、紫外線をさえぎるフィルターや、ときにはブルーライトをやわらげるフィルターが組み込まれています。
老化

水晶体はどのように老いていくのか
体のほとんどの組織とは違い、水晶体は新しい細胞を作ることをやめません。作られた細胞は線維となって中心に向かって積み重なり、そこで押し固められて水分を失っていきます。ここから、人生の異なる二つの時期に、見え方の大きな変化が生まれます。
45歳ごろ:老視
少しずつ硬くなることで、水晶体は近くを見るときにふくらむ力を失っていきます。調節が足りなくなり、眼鏡なしでは楽に読めなくなります。新聞を遠ざけたくなり、夕方には目が疲れ、細かい字がぼやけてきます。これが老視です。自然でだれにでも起こる現象であり、眼の病気とは関係がありません。近視の方も、遠視の方も、正視の方も、40代に入れば例外なく関わってきます。累進屈折力眼鏡、多焦点コンタクトレンズのほか、PresbyLASIKのような手術によって補うこともできます。
60歳を過ぎて:白内障
時間とともに、水晶体のたんぱく質は化学的に変わり、本来の形を失って塊をつくり、光を散らすようになります。水晶体は透明さを失い、黄ばみ、少しずつ濁っていきます。これが白内障です。すりガラス越しに見ているように視界がかすみ、色あざやかさが失われ、まぶしさがつらくなります。とくに夜、対向車のヘッドライトでそれを感じます。眼鏡の度数を合わせ直しても、読むことが難しくなっていきます。
白内障は、世界的にみて、65歳を過ぎてから視力が下がる原因のうち、治療によって取り戻せるものの第一位です。数か月から数年をかけてゆっくり進み、日々の暮らしに差し支えるようになった時点で手術が必要になります。
手術
水晶体と手術:超音波水晶体乳化吸引術(phacoémulsification)と眼内レンズ
水晶体の濁りが日々の暮らしに差し支えるほどになったとき、有効な方法は手術しかありません。濁った水晶体の透明さを薬で取り戻す治療は存在しないのです。白内障の手術では、もとの水晶体を取り除き、透明な眼内レンズに入れ替えます。眼内レンズはそのまま入れておくものです。
超音波水晶体乳化吸引術:標準となる方法
Tourabaly医師が用いる標準的な手術方法は、超音波水晶体乳化吸引術です。超音波で濁った水晶体を細かく砕き、およそ2.2mmの小さな切開から吸い出します。縫合は行いません。この切開は自分で閉じる形になっていて、数時間のうちにふさがります。手術はふつう15〜25分ほど、局所麻酔で、サント・ジュヌヴィエーヴ病院(パリ14区)の日帰り手術として行います。
先ほどご説明した薄い膜、すなわち水晶体の後嚢は、手術のあいだ丁寧に残します。この後嚢が眼内レンズの支えとなり、レンズは水晶体嚢のなかで、光学的にちょうどよい位置に保たれます。
眼内レンズの選び方
眼内レンズは、残した水晶体嚢のなかに入れる人工のレンズで、入れ替えの必要も手入れの必要もありません。手術のあとの見え方の快適さは、いまではこの選び方に大きく左右されます。レンズにはいくつかの種類があります。
- 単焦点眼内レンズ:ひとつの距離(多くは遠く)に合わせるレンズです。読むときには眼鏡が必要になります。フランスの公的医療保険で費用がまかなわれる、基本のレンズです。
- 焦点深度拡張型(EDOF)眼内レンズ:遠くから中間までを途切れなくカバーし、まぶしさも少なめです。活動的な方や、車をよく運転される方に向いています。EDOF眼内レンズのページをご覧ください。
- 多焦点眼内レンズ:光を複数の焦点(遠く、中間、近く)に振り分けます。条件が合う場合には、眼鏡に頼らずに過ごせる度合いをもっとも高められます。プレミアム眼内レンズのページをご覧ください。
- トーリック眼内レンズ:白内障の手術に合わせて乱視も矯正します。角膜の乱視がはっきりある場合に選びます。
術前の検査は、角膜形状解析(トポグラフィー)と生体計測(バイオメトリー)のあるカシャンの診療所で行います。その後の経過観察は、カシャンでもパリ13区でも受けられます。手術はサント・ジュヌヴィエーヴ病院(パリ14区)で行います。
予防
水晶体を守ることはできるのか
水晶体の自然な老化そのものを止めることはできませんが、濁りを早める要因はいくつか分かっています。次のような心がけは、水晶体をより長く保つ助けになります。
- 紫外線から眼を守る:CEマーキングのカテゴリー3のサングラスをお使いください。日光を浴びた量が積み重なると、白内障が早く現れやすくなります。
- たばこを吸わない:喫煙は、水晶体が早く濁ることの危険因子としてはっきり分かっています。
- 糖尿病をきちんと整える:血糖の高い状態が続くと、水晶体のたんぱく質の糖化が進み、代謝性の白内障が起こりやすくなります。
- ステロイドの長期使用を漫然と続けない:眼科での経過観察なしに長く使い続けると、後嚢下白内障という特有の形の白内障が起こりやすくなります。
- 食事と定期的な検査:抗酸化物質(カロテノイド、ビタミンC、ビタミンE)を多く含む食事と、60歳からの定期的な眼科受診によって、まだ急いで手術せずに見守れる段階で白内障を見つけられます。
受診の目安
いつ眼科を受診すべきか
次のような症状があるときは、毎年の定期受診を待たずに予約を取ってください。
- 片眼または両眼の見え方が少しずつ落ちてきて、眼鏡を作り直しても良くならない
- 度数の合った眼鏡をかけていても、かすむ、ぼやける、乳白色がかって見える
- 夜の運転がしづらい、ヘッドライトや照り返しが強くまぶしい
- 眼鏡の度数が急に変わる(核白内障による近視化)
- 老視の矯正を新しくしたのに、読むことがだんだん難しくなる。白内障が始まっているサインのことがあります
- 片方の眼だけで見ても二重に見える(単眼複視)
知っておきたいこと:白内障は、すぐに手術しなければならない緊急の病気ではありませんが、進んでいくものです。早く診てもらうほど、術前の検査は正確になり、見え方の見通しも立てやすくなります。定期的に検査を受けていれば、ご自身にとってちょうどよい時期に手術を計画できます。
よくある質問
水晶体についてよくある質問
出典
- Société Française d’Ophtalmologie(SFO、フランス眼科学会):年次報告「水晶体と白内障」。水晶体の生理、病態、手術について。
- Collège des Ophtalmologistes Universitaires de France(COUF、フランス大学眼科教員団):項目「白内障」。解剖、老化、手術の適応について。
- Haute Autorité de Santé(HAS、フランス高等保健機構):成人の白内障手術に関する診療ガイドライン。
この記事は情報提供を目的としたもので、医師の診察に代わるものではありません。ご自身の水晶体の状態を確かめ、個別の診断を下せるのは、眼科の検査だけです。
水晶体による見えにくさでお困りですか
Quinze-Vingts国立眼科病院(Sorbonne Université/ソルボンヌ大学)の元 臨床医長(Chef de Clinique)であるMoïse Tourabaly医師が、見え方をひととおり調べたうえで、ご自身の状況に合った方法をご案内します。老視が始まったところでも、見守るべき白内障でも、手術を考える白内障でも同じです。
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執筆・監修: Dr Moïse Tourabaly、屈折矯正手術を専門とする眼科医 — キャンズ・ヴァン国立眼科病院(CHNO des Quinze-Vingts)元チーフレジデント。
最終更新: 1970年1月1日